ななしさんの戯言

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北宇治の成績にあかりを想う『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』

 !注意!
 この記事はタイトル以外、ネタバレにいっさい配慮していません。

 10/1(日)、新宿ピカデリーにて『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』を観てきました。

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 映画の日ということもあり、19:10開場の回で座席の8割以上は埋まっていたようです。来場特典にも「1週目入場者プレゼント」とあるので、前回*1の実績から今回もそれなりの動員はあると踏んでいるのかと思われます。

 

■フォトセッション

 最初に本編とは関連性が薄い小話が始まります。みどり*2が写真を撮る撮ると騒ぐのですが、ここでまさかの「このシーンだけスマホでスクリーンを撮影OKだからSNSで拡散してね(意訳)」発言が。

 最後列だったのでみんなごそごそとカバンからスマホを出して撮影していて、なんというか映画館らしからぬ光景でした。客層的にSNSでの宣伝は期待できそうです。

 私もスマホの電源を入れるのを面倒臭がらずに撮影しておけばよかった、と後悔しています。

 

■本編

 フォトセッションが終わると、映画館恒例の注意事項の後に本編が始まります。

 小学生のあすか*3が宅配された大きな箱から手紙とノート、そしてユーフォニアムを取り出すところから始まります。原作もTVアニメ版も主人公である久美子*4視点なので新鮮さを感じる*5とともに「久美子とあすかの話をがっつりやる気だ」という意気込みが強く感じられます。

 そのかわり、麗奈*6の出番がほとんどありません。尺の都合もあり仕方ないとはいえ、正直みどりより目立たなくて葉月*7と一緒にモブ一歩手前なのはちょいと悲しいものがあります。

 場面は変わり、関西大会のリハーサル室。あすかが全国への思いを語ります。ここは重要な伏線なのですが、関西大会もやるとは思っていなかったので「あかりちゃん*8ワンチャン!」とか他の誰も考えていないであろうことを祈ってました。もちろん出てきませんでした。

 関西大会での演奏を聴いて、それだけでも映画館に来て良かったと思いました。ヘッドホンで聴くのとは迫力が段違いで、特に低音がしっかり鳴るのがいいですね。あとピッコロの高音が大変心地よかったです。映像も曲に合わせて各人の演奏を映していて良い感じでした*9

 そして話は動き出します。関西大会後、あすか母が学校に乗り込んであすかに吹奏楽部を辞めさせようとします。それを久美子が偶然見かけてしまい、吹奏楽部内にその情報が流れてしまうのです*10

 以降はあすかーあすか母の関係性*11と、久美子の姉ー久美子の両親との関係性*12を対比しながら丁寧に展開していきます。他のキャラの話を途中に挟まないためテンポも良く、必要に応じて新作カットも追加されており*13、TVアニメ版よりも格段に良くなっているように感じました。

 とにかくずっと「久美子とあすかの物語」として没入できました。久美子が電車で泣くシーンとか、久美子があすかを説得するシーンとか、原作も読んでいるしTVアニメ版も観ているのにグッときました。

 

 この劇場版はTVアニメ版の総集編では決してありません。

 『響け!ユーフォニアム』が好きな人には、ぜひ映画館のスクリーンと音響で観て欲しいです。

 『響け!ユーフォニアム』を知らない人には、前回の劇場版と合わせて観て欲しいです。

 

 紆余曲折の末、あすかは部に復帰して全国大会本番。素人目には完璧に思える演奏をするものの“銅賞”に終わり、来年への課題を残しつつ三年生は引退。そして卒業式へと繋がります。

 物語の綺麗な完結と未来への予感。ユーフォニアムが奏でる美しい曲。久美子とあすかの積み上げた時間への回想。

 

 こんなに素晴らしい劇場版を作ってくれてありがとうございます!

 

■北宇治が全国で“銅賞”の理由

 ありがとうございます……ではあるのですが、同時に思うところはあるのです。

 それは北宇治が全国で“銅賞”である、ということと関係しています。

 

 もちろん普通に考えれば「北宇治が“銅賞”の演奏しかできなかったから」なんですけれども。

 でも劇場版やTVアニメ版を観ただけだと北宇治の実力ってよく判らないんですよ。最初はヘタクソだけど練習を重ねて見違えるほど上手くなったのは物語を追えば判ります。でも“他校と比べてどのくらい”上手くなったのかは判りません。なにせ北宇治高校の演奏はCDとして売られているほど上手いのです。 

  と同時に、他校の演奏がどうなのかも判りません。なにせ関西大会でも全国大会でも他校の演奏は全く聴けないのですから。

 劇場版でもTVアニメ版でも「物語の都合で“銅賞”としました」としか言えない。

 

 でも原作小説を読むと、また違った答えが出てくるんです。

 (前略)と、そこまで来たところで、久美子はハッと気づいた。あの二人、秀大付属の人間だ。
「ほんまにすみませんでした」
 ブルゾンを着た少女の声は、ほとんど掠れて聞き取りにくかった。距離があるせいで、なかなか声が聞き取りづらい。もう一人の少女が首を横に振った。
「なにいってんの。あかりちゃんはよく頑張ったよ」
「でも、うちがソロ、ミスったから」
「そんなん、誰だってミスぐらいする。それに、本番の数日前にいきなりソロやれって言われたら、そりゃあ緊張もするわ」
「でも先輩はこれで最後やのに! うちのせいで、」
 言い募る部員の肩を、先輩と呼ばれた少女が軽く叩く。
「そんなん言うたら、本番前に事故った私がいちばん悪い。骨折なんてして、みんなに迷惑かけて」
「先輩はなんにも悪ないです!」
 (中略)
「大丈夫。みんなあかりちゃんが頑張ってたことは知ってるし、誰も責めたりせえへんよ。それに、まだ全国行けへんって決まったわけじゃないしさ。うちの学校はソロのミスじゃびくともせえへんくらい上手い。そんなこと、あかりちゃんだってわかってるやろ?」
 (後略)

 

 長いのでかなりはしょりましたが、ここのやりとりが本当につらいんですよ……秀大付属がダメ金*14で北宇治が全国大会にいくわけですので特に。

 

 これまで関西大会は大阪東照、明静工科、秀大付属の三強が全国大会の三枠を確保し続けていました。北宇治は急成長したとはいえ層は薄く*15、大会の経験も少ない*16。おそらく三校すべてが完璧な演奏を行なっていたら北宇治の全国出場は無かったと思うのです。

 北宇治が人事を尽くして三強に肉薄し、そこに秀大付属の不幸とミスが重なった結果の奇跡の逆転劇。それが関西大会だった。

 

 そう考えれば、全国で銅賞なのもむべなるかな、と。

 

■取捨選択の狭間で

 「久美子とあすかの物語」としては劇場版は完璧といえる出来でした。そこに不満は一切ありません。

 でも『響け!ユーフォニアム』の世界としては原作小説と比較して非常に狭く、広がりのないものになってしまったとも思っています。

 

 もちろん、コストがかかるのはわかっています。あかりのミスを表現するためだけに、キャラに制服に声優にクラリネットソロの新曲にと色々揃えなければいけません。尺も伸びます。取捨選択のタイミングで捨てるのはやむないことと理解はしています。

 でも、それでも……映像で観たかったんです、『響け!ユーフォニアム』の世界がババッと広がる瞬間が。

 

 『響け!ユーフォニアム』は原作小説が2年目に突入しました。こちらは未読*17なのでうかつなことは言えないのですが、全国大会の前に関西大会がある以上、秀大付属は必ず出てきます。

 あかりがどうなったか、気になりませんか? 秀大付属を引っ張って北宇治の前に立ちはだかるのか。それともいたたまれなくなり部を去ってしまっているのか。はたまた小説でもスルーされてしまうのか。

 

 映像も原作2巻の完全新作が予定されているので、可能性は限りなく薄いですがあかりが出てくるかもしれません。

 というかあかりちゃん出して!

 あのシーンが原作で一番好きなんですよ……

*1:劇場版 響け!ユーフォニアム〜北宇治高校吹奏楽部へようこそ〜』のこと。

*2:川島緑輝、いちばんかわいい、小さいけどコントラバス担当。

*3:田中あすか、小学生の頃からメガネ美人、副部長でユーフォニアム担当。

*4:黄前久美子、主人公にして失言王、ユーフォニアム担当。

*5:TVアニメ版の記憶が曖昧ですが、このシーンって新規ですよね?

*6:高坂麗奈、久美子の特別な親友、トランペットソロ担当の超高校級1年生。

*7:加藤葉月、久美子や緑輝の友人、高校から吹奏楽を始める。

*8:あかりちゃんが誰なのかは後で。

*9:知り合いのシンバル経験者から昔「シンバルは止めるのが大事」と聞いていたので叩くところばっかりで止める絵がないのが気になってた楽器素人。

*10:久美子のイベント遭遇率と情報漏洩率はさすがの一言。

*11:いい子を演じて親に従って吹奏楽をやめて大学に行こうとしている。

*12:いい子を演じて親に従って吹奏楽をやめて大学に行ったことを後悔している。

*13:多分、自信ない。

*14:金賞だけど次の大会に進めない、ダメな金賞のこと。

*15:1年前のトラブルで2年生の数が少ない。

*16:10年ぶりの関西大会出場。

*17:そのうち読むつもりです。